チベット仏教が宗派対立の脅威により消滅の危機に瀕していた当時、ケンツェ・ワンポはジャムグン・コントゥル・ロドゥ・タイェ、チョギュル・リンパとの協力のもと、雪国全土にまたがる無宗派運動を開始・推進し、仏教の様々な宗派に新しい命を吹き込み、多くの伝統を消滅から救った。 現在のケンツェ・リンポチェもこの精神を受け継ぎ、自分が仕える各宗派や伝統に忠実であり続け、何一つ混ぜることも、些細なことを省いたりすることもなく、その活動を続けている。
リンポチェはまた、衰退しつつある伝統的な修行、特に口伝(ルン)を推進することを大切にしている。例えば、彼は2006年から2007年の冬にかけての3か月間、インドのチャーントラにあるゾンサル・ケンツェ・チョキ・ロドゥ・インスティチュートにて、僧侶と在家修行者たちにカンギュル(ブッダの言葉)を口伝した。
リンポチェは伝統的な仏教教育を幅広く受けたが、仏教の哲学と理論に関する理解のすべては、インドのサキャ・カレッジで学んだ年月のおかげであるという。 リンポチェはまた、チベットで教育を受けた最後の世代であるあらゆる伝統の多くの師から豊富な実践的指導を受けており、彼の主な師であり、「私の頭頂に座る」師は、今や伝説となったディンゴ・ケンツェ・リンポチェ猊下である。
1980年代初頭にオーストラリアで教えを授けるために初めて海外へ旅立って以来、リンポチェは広範囲に旅を続け、その過程で、彼の活動を支援し、その範囲を広げるために、数多くの国際的な組織を設立してきた。 その中には、リンポチェの教えを企画、配布、保存するSiddhartha’s Intent、リンポチェの志を実現するために必要な財政的支援を提供するKhyentse Foundation、ブッダの言葉を現代語に翻訳する84000、難民、特に虐待を受けたり、貧困にあえぐ女性や子供たちを支援する様々なプロジェクトを指揮するLotus Outreach、教育を通じてブータンの持続可能な発展を促進するために2010年に設立されたLhomon Societyがある。
リンポチェは仏教に関する複数の著書を出版しており、多くの言語に翻訳されている:『What Makes You Not a Buddhist(邦訳:ブッダが見つけた四つの真実)』(2006)、『Not For Happiness』(2012)、『The Guru Drinks Bourbon?』(2016)など。 リンポチェは仏教界以外でも、脚本・監督を務めた長編映画で知られている:『The Cup』(1999)、『Travellers and Magicians』(2004)、『Vara: A Blessing』(2012)、『Hema Hema』(2016)、『Looking for a Lady with Fangs and a Moustache』(2019)など。
ブッダの教えが世界中に広まり続けるにつれ、仏法は現在、さまざまな文化に同化され、吸収されつつある。 しかし、リンポチェが苦心して指摘するように、チベット仏教に付随する文化的パッケージは選択肢のひとつではあるが、仏法そのものを近代化する必要はない。 釈迦牟尼はブッダであり、全知全能の存在であった。それゆえ、釈迦牟尼が発したすべての言葉、釈迦牟尼が鼓舞したすべての伝統、釈迦牟尼が伝えたすべての側面は、釈迦牟尼の時代と同様に、今日においても適切かつ必要なものなのである。 リンポチェは自身の教えの中で、仏教が属する民族的背景よりもむしろ仏教の「見解」に第一の関心を向けるべきであり、現代の精神的な道に浸透している欠点や堕落に注意を集めることを決して躊躇せず、21世紀において仏法の師や生徒が直面する課題を大胆にさらけ出すべきだと繰り返し強調している。